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![]() 南方系サンゴ北上 伊豆半島、館山で確認2010年8月2日 温かい南海にいるサンゴが北上している。伊豆半島や紀伊半島の南端、千葉県館山市では越冬しているのが確認された。原因は海水温の上昇。このまま上昇し続けると、九州北部にサンゴ礁が出現する予測も出された。海でどんな異変が起きているのか。 (市川真) 今年六月下旬、静岡県南伊豆町の海に潜った国立環境研究所地球環境研究センターのフェロー杉原薫さんは目を見張った。岩に張り付いた緑色っぽいサンゴが目に入ったのだ。沖縄など温暖な海域でしか生息できないマルキクメイシと、すぐに分かった。 五十メートルほど離れた場所には、ショウガサンゴという南方系サンゴの群体も見つかった。大きさは十〜二十センチ。定着して数年はたつと思われた。約二十年前、同じ現場で専門家が調査したときには、二種類とも未確認だった。杉原さんは「今までなかったサンゴが新たに定着したということ。驚きです」と話す。 南西諸島だけに生息すると思われがちなサンゴだが、実は新潟県佐渡島付近を北限に、国内に四百種類が生息しているとされる。本州付近のサンゴは地味で目立たないものが多く、実際の観察記録は少ない。 ところが最近、沖縄周辺でしか見られなかった南方系サンゴが、伊豆半島以外にも紀伊半島南端や館山市、長崎県五島列島など本州にじわじわ広がっている。 伊豆半島で確認されたショウガサンゴは、もともと高知県が北限とされてきた。しかし昨年には紀伊半島で確認され、今年は伊豆と、徐々に生息域が拡大している。 なぜ南方のサンゴが北上しているのか。「冬場の海水温が上昇しているのが原因」と指摘するのは、同センター主任研究員の山野博哉さんだ。サンゴの卵は、以前から黒潮に乗って本州付近まで運ばれていたものの、冬の低温で死滅していた。冬でも生き残れるほどの温かさにまで海水温が上昇したことで定着、成長したという。 例えば、館山市で群体が確認されたエンタクミドリイシは、海水温が一三度を下回ると死滅する。山野さんが東京海洋大の観測データを分析したところ、館山市付近の海水は一九八五年以降で年平均〇・〇六度ずつ上昇。九九年冬には過去最高の一五度を記録した。山野さんは「このころサンゴが定着した」とみる。 海水温が上昇し続けると、佐渡島付近の分布北限が青森まで広がり、南方系サンゴが生息できる海域が石川や福島の沿岸まで北上するほか、九州北部にサンゴ礁ができる可能性もあるという。 ◆白化現象が心配海水温が上がると心配されるのがサンゴの白化現象だ。山野さんは「今年は白化が起きる可能性がある」と心配する。インド洋の海水の高温状態が続き、台風の発生が少ないなど、沖縄周辺で白化現象が起きた一九九八年に気象条件が似ているからだ。 サンゴ礁には、微生物や魚類、甲殻類などさまざまな生物が生息しており、海の中の森の役割を果たしている。「サンゴの北上や白化によって、生息する生物の種類が変わる。生態系に大きな影響を与え、結果的に漁業や私たちの生活スタイルも変わらざるを得ないだろう」という。 サンゴの北上や白化を、日ごろから海に潜っている市民ダイバーの目で確認してもらおうと、サンゴマップの制作も二〇〇八年に始まった。これまでに、サンゴが確認された地点と、されなかった地点の三百八十件ほどの観察情報が寄せられた。沖縄周辺からは既に「部分的に白化した」との情報も寄せられた。 山野さんは「日本はダイビング人口が多い割に、サンゴ調査を手掛ける人は少ない。ダイバーに広く呼び掛けて、海の中で何が起こっているかを調べたい」と話す。 問い合わせは世界自然保護基金ジャパンサンゴマップ広報担当=電03(3769)1713=へ。 <サンゴの白化> 海水温が上がると、サンゴに共生している褐虫藻(かっちゅうそう)が死滅するなどして発生する。白く見えることから、白化と呼ばれる。 →Coral-Homepage |